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インパクトファクターと'In press'期間の長さ

研究 科学政策

先日の記事にも一部書いたが、研究の内容を発表する雑誌(ジャーナル、一部マガジンとも呼ばれる)の「良さ」を測る指標の一つがインパクトファクター(Impact factor, IF)だ。IFとは、その雑誌に発表された論文が、1年間でどれだけ引用されるかの期待値であると理解して良い。IFはトムソン・ロイターが毎年発表しており、web of scienceというデータベースで確認することができる。

インパクトファクターについて - Clarivate Analytics

インパクトファクターの計算方法は?


A: A=2003年、2004年に雑誌Pに掲載された論文が2005年中に引用された回数
B= 2003年、2004年に雑誌Pが掲載した論文の数
雑誌Pの2005年のインパクトファクター=A/BIFはその雑誌の影響力を測る指標であり、IFが高くなれば(研究者からの)雑誌の人気度が上がり、投稿数・購読数が増え、出版社は儲かるということになる。そこで、IFが上がれば、その雑誌の編集部(または出版社)は大々的に宣伝する。

実は、IFはすべての雑誌について計算・発表されるわけではなく、トムソン・ロイターがインデックスした雑誌についてのみ計算される。つまり、IFが付いている雑誌=トムソン・ロイターの"お墨付き"雑誌ということになるので、インパクト・ファクターが発表されれば、雑誌からプレスリリースが出ることもしばしばである。

最近気になるのが、「In press"期間を長く設定すると、雑誌のインパクトファクターを『かさ上げ』してしまっているのではないか?」ということだ。

神経科学の雑誌で、"Journal of Neuroscience" (JNS)という雑誌と、"Cerebral cortex"(CC)という雑誌がある。どちらも権威ある神経科学の総合誌で、インパクトファクターは5から10の間、というイメージだ。某偉い先生は、JNS以下の論文は業績として認めないと言ったとか言わないとか……

2010年ごろの認識では、JNS >= CCというイメージだったのだが、JNSがじりじりとインパクトファクターを下げているという話が出ている。ざっとインパクトファクターの推移を調べてみると、以下のような感じだ(端数切り捨て)。

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JNS

2015 - 5.9
2014 - 6.3
2013 - 6.7
2012 - 6.9
2011 - 7.1

CC

2015 - 8.2
2014 - 8.6
2013 - 8.3
2012 - 6.8
2011 - 6.5

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ResearchGateという、研究者のLinkedInのようなサイトがあるのだが、ここでも同様の傾向が出ている。

なぜJNSのインパクトファクターが低下傾向にあるのだろうか?実際に研究の質が下がっているというのも可能性としてあるかもしれない。例えば、eLifeは生命科学系のいい雑誌の受け皿として機能している。インパクトファクター10以上のいわゆるハイインパクト誌いくつかでダメだったら、速報系オープンアクセス(Plos one, Scientific reports, Frontiersなど)に出してしまおうという考え方をする人が増え、投稿数が減ったのかもしれない。

でも、もしそうならCCも同じように減っていると思うのだがその傾向は見られない。なぜだろう?

私が思い当たる原因の一つが、CCの'In press'期間の長さだ。In pressとは、年に何度か出版される学術雑誌に載せるために印刷(準備)中ということだ。最近は論文のPDFを、アクセプト後わりとすぐに雑誌のウェブサイト上に発表することが多いので、長い間In pressになって公表された状態が続き、紙媒体に掲載される、ということになったりする。

もうお分かりだろうか。つまり、「実際に世の中に(PDFとして)論文が出た時期(実質発表年)」と「論文の出版年」との間にズレがある。毎年のインパクトファクターは、その年から遡って3年間の間に出版された掲載論文の引用数で決まるので、実質発表年と出版年のズレが大きくなると、実質的には3.6年間とか4年間とか、3年以上世の中に出回っている論文なども出てきてしまうということだ。そうすると、被引用数がいわば(合法的に)水増しされた状態になってしまう……ということだ。

CCはIn pressの期間が1年間くらいあったりする論文がざらにある。先月号(September 2016)も、オンラインになったのは2015年9月だったりする論文もある(オープンアクセスではオンラインから出版までが早いが、これはなぜだろう?誰か知っている人がいたら是非教えて欲しい。funding agencyからの要請だろうか?)。

実際、CCを出しているOxford pressはかなりインパクトファクターを気にしているように見える(どの雑誌もインパクトファクターの推移を誇らしげに記載している)。Social Cognitive & Affective NeurosciというOxford pressの雑誌は、Social neuroscience系の速報専門誌といった感じの位置付けだが、インパクトファクターが結構高い。2014年はJNSより高いと話題になった。

SCAN

2015 - 5.101
2014 - 7.372
2013 - 5.884
2012 - 5.042
2011 - 6.132
サイトを見てもらえれば分かるが、だいたい3-5ヶ月くらいはin press(advanced access)状態に置かれるようだ。

対してJNSは、最近Early releaseというのを始めたようで、コメントを出している。インパクトファクターは全てではないが、低下傾向はなんとかしたい、という改革意識の表れかもしれない。

この流れが今後どうなるだろうか。
最近はbioarxivなど、出版前プレプリントを出すところがかなり増えたので、アクセプト前の原稿にアクセスしやすくなっている。そうなると、In pressがあってもなくても、結局引用数は変わらないようになるのではないか?という気がしている。いい論文がたくさん載っているところは引用がつき、インパクトファクターとしてきちんと返ってくる、という本来あるべき姿に進むのではないかと期待している。

しかし論文を書かなくては、来年の職がなくなってしまう……

 

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)

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この本は英語版を買って読んだが、いわゆる「ライフハック」的な意味でのアドバイスがたくさん載っている。全部実践するというより、適当にかいつまんで真似する。研究者向け。

 

できる研究者の論文作成メソッド 書き上げるための実践ポイント (KS語学専門書)

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こっちは初めて論文を書く若者のために、的な本。まだ論文を書いたことのない人向け。

どちらの本も結構高い割には割と内容が薄いので、研究室の先生におねだりして買ってもらうのが吉ではないかと思う……