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オープンアクセスで得をするのは誰なのか

研究 科学政策

直接的には出版社と交渉するのが一番だろうと私は思うのだが…

今日気になるニュースが出ていた。

www.asahi.com

 

研究者の主な仕事は研究をすることだ。研究結果の結果は、(分野にもよるが)査読を経て論文誌に学術論文として発表されるのが一般的である。研究者の評価は、出版した論文によって評価されることになる。

この「論文誌」とは、要は論文がたくさん載っている雑誌*1である。この論文誌にはランクがあって(Impact factorと呼ばれる)、どこでもいいから論文を出せばいいのではなく、いい雑誌に載せるのも研究者にとって大事だったりする*2

この論文誌というのは、

  • 学会が発行する学会誌(例:北米神経学会が発行するJournal of Neuroscience)
  • 出版社が発行する商業誌(例:Nature)

の二つに分けることができる。

この学術雑誌を出す出版社というのは幾つかあるが、有名どころでいえばSpringer, Elsevierなどだろう。例えばNatureはSpringer系、cellはElsevier系だ。

このあたりの出版社の目的は、平たく言ってしまえば「利益をあげること」だ。これ自体は全く悪くないのだが、最近、あまりに儲けすぎ・利益主義的すぎてサイエンスに悪影響を及ぼしているのではないかという議論がある。

幾つか論点はあるのだが、まとめると

  • 出版社が図書館に課す雑誌の購読料が高すぎる
  • 購読したい雑誌以外にも、あまりダウンロードされない(人気があまりない)雑誌も一緒に図書館に契約させている

ということだろうか。あまりに高い購読費を要求する出版社への論文投稿をボイコットすればいいのかもしれないが、先に述べた通り、研究者の活動は出版された論文によって左右されるので、いわゆる高インパクト誌(出版すると論文を執筆した研究者の評価が高くなる、一流雑誌)に出さないのは研究者にとって損なので、ボイコットというのも難しい。

この問題を解決するための方策の1つが「オープン・アクセス」である*3。これは、なんらかの方法で、「(インターネットさえあれば)誰でも自由に論文が閲覧できるようになる」というものである。要は(仮に全ての)論文が自由に閲覧できるような環境にあれば、高い論文購読料を払う必要もなくなるので、図書館・大学への負担を減らすことができる、ということである。

オープンアクセスのやり方は大きくわけて2つあって

  • セルフアーカイビング:「自分たちで出版した論文は自分たちで集めて、みんなが読めるようにする」というもの。大学などに用意されたリポジトリなどに著者が自分で論文をアップロードして、みんなが見られるようにする
  • オープンアクセスオプション:「オープンアクセス雑誌」という、出版された全ての雑誌がオープンアクセスになる雑誌に投稿する、または通常の雑誌に投稿する際、オープンアクセスオプションをつける(そのための代金を払う)。
    この場合、論文が掲載された雑誌のページ(電子ジャーナルページ)に行けば、誰でもPDFがダウンロードできる。

で、ここから本題。

オープンアクセスというのはとても良い考え方だし、進めるべきだと思うのだけど、やはり私が思うのは、「オープンアクセスにしても、結局得するのは出版社のままで、出版社は儲け続けるだろう」ということだ。

セルフ・アーカイビングでもいいのだけど、著者が大学リポジトリに登録できるまでは一定の期間を置くことが条件になっている場合も多い。研究者の性として、そして競争に負けないようにするには、出された論文はすぐチェックしてしまう。アーカイブされるまで悠長に待っている、なんてことはできない。

なので、おそらく種類になるのは、オープンアクセス誌に出したりオープンアクセスオプションを選ぶということになると思う。これはとどのつまり、論文を出すために出版社にもっとお金を払うことになる。しかも「オープンアクセス化」が十分に進むまで、おそらく雑誌の購読料が下がることはなさそうだ。

オープンアクセスジャーナルも一部問題を抱えている。レビュープロセスに決定的な問題がありそうだという話もある。要はpublication feeが入って来ればいいのか?と疑ってしまう。

neuroconscience.com

Predatory publisherリストに入れられている。

scholarlyoa.com

さらに日本でのオープンアクセス化に向けて気になるのは、記事でも指摘されている通り、オープンアクセスオプションの代金を誰が払うのかという点だ。

オープンアクセス料金を科研費などで出していたら、論文を出すのがかなり大変になる(1本につき10万円程度〜余計にかかるイメージ)。オープンアクセスを義務化するというなら、オープンアクセスにかかる費用は、科研費などとは別枠でカバーされるべきなのではないかと思う。実際、北米やヨーロッパの研究期間では、オープンアクセスが義務化された場合、オープンアクセスにかかった費用は、支給される研究費とは別途カバーされる仕組みになっていたりするところもある。

オープンアクセスにする大義名分としては、研究が公の資金で賄われている以上、その成果は、研究に投資している納税者だれでも見ることができるようにすべき、というものもある。私はオープンアクセスにする理由としては、こちらの考え方のほうがしっくりくる。一応、この朝日の記事では、この理由がオープンアクセスの大義名分として採用されているようで良かったと思う。 

*1:一般的にJournalと呼ばれる学術雑誌。ただたまにmagazineと言っているものもある。例えばScienceはScience magazineであることがURLから読み取れる。これは学術誌でありながら広く(サイエンスに関心を持つ)大衆にも興味のあるものを載せるかどうか、ということなのだと思う

*2:ただこれには賛否両論あり。Impact factor偏重主義による弊害も指摘されている

*3:直接的には出版社と交渉するのが一番だろうと私は思うのだが、オープン・アクセスを進めると、出版社に対してプレッシャーを与えられるという副次的な効果はあるだろう