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平等な採用とは?

研究

卓越研究員や京大白眉研究員の採用で、採用された候補者の中で「女性が少ない」というのが話題に上がっていた。

 確かにKeiko Toriiさんのおっしゃる通りで、海外(欧米はもちろん、イスラム圏含むアジアや南米含む)の大学院や研究機関では、採用時に多少なりとも男女のバランスを考慮するはずで、片方の性別に偏るような採用は、男女別学などの特殊な場合を除いて避けるようにしているはずである。

制度・公募の詳細な選考過程がわからないのでなんとも言えないが、卓越研究員は、男女比を考慮して採用することが難しいのではないかと思う。卓越研究員は、欲しい研究員を公募という形で出し、実際にその枠に誰が入るか(または、その枠に人を入れる必要がない、と決定する)は、外部の「独立の」審査機関がピア・レビュー形式で決めるらしい。採用が特定の分野に偏らないという意味での多様性は、XX系という分け方や細目を指定することである程度確保しているようだが、同時にジェンダー多様性を確保するのは難しくなるのではないかと思う。おそらくだが、各細目をまたいで、大学ごとにジェンダーバランスを考慮して……となるとかなり解くことが難しい問題になってしまうのではないかと思うので、今回偏ってしまったのは仕方ないのではないかと思う。女性に一律加点、というのも可能かもしれないが、そうすると女性が多い分野では、男性よりも業績がある女性も必然的に多くなるのではないかと思うので、これはこれで調整が難しいかもしれない。

追記 - ツイッターで言われている卓越研究員は東大卓越研究員、上で書いてるのは文部科学省の卓越研究員事業という別物。コメントでの指摘ありがとうございました。

先に指摘されていたジェンダーバランスの問題は、研究所やそれぞれの大学(または学科単位)で、多様性を考慮する裁量権がある場合は是正されるべきではないかと思う。その点で、白眉センターの内定者で女性ゼロ・海外ゼロ(おそらく日本国籍以外の候補者、という意味だろう)というのは多少問題ではないかという気はする。

www.hakubi.kyoto-u.ac.jp

イギリスの大学での公募を見ていると、一定のラインを超えた候補者の中から、研究所とのマッチを考慮して誰を採用するか決める、みたいな採用方法であるように思う。トータル引用数やインパクトファクターだけで決めると、Nature > Science, 論文引用数5,000 > 4,500となってしまうが、どちらもすごいというのは明白で、微妙なラインでこだわるよりはフィットや多様性を重視するべきということになるようだ。

ただしこれは応募者の層が厚く、みんな優秀な人が応募するから出来る戦略であって、日本でやろうとすると、頭一つ抜き出た人をとらざるを得ないということになってしまうのかもしれない。実際に日本で公募の選定に携わってみないとわからないのだと思う。

また、公募なんだから実績だけで決めるべきだ、という意見もあるかもしれないが、「マジョリティは陽に暗に恩恵を受けていて、マイノリティはその逆である。マイノリティであるということ自体に、暗にネガティブなフィードバックがかかっている可能性がある。マジョリティに現に属する人たちが差別的行為を働いているということがなかったとしても、過去の世代が積み上げてきた恩恵に浴しているので、不利益を被る可能性はあるが、アファーマティブアクションを受け入れるべき」というのが、ジェンダーバランスを考慮すべきという側の意見だ。また、良い形で多様性の確保された社会というのは、誰にとっても生き易い世の中になるはずだ(良い形で、というのが一番難しいところなのだが)。

サンデル本にはこういう話がいっぱい載っている。詳しくない人は是非読もう。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

最後に、視点を変えてみると、日本もそんなに悪くないのではないかという話もある。

www.nature.com

これはNatureの科学者ジェンダーバランス問題に関する記事で、(1)「全研究者のうち、女性が占める割合」と、(2)「National science academy (日本の場合はおそらく日本学術会議)の女性が占める割合」を比較してみると(1) < (2) となった国は日本だけだったのだ。とはいってもせいぜい20%というくらいで、最終的にはどちらも50%になるのが望ましいのかもしれないが、数字の上では日本も意外と頑張っているな、という印象を持った。

PNASという雑誌

研究

いろいろなところで紹介されている、Proceedings of the National Academy of Science (PNAS)のEarly editionの論文

Physical and situational inequality on airplanes predicts air rage

headlines.yahoo.co.jp

…が、pubpeerやブログで問題が指摘されている。

 

PubPeer - Physical and situational inequality on airplanes predicts air rage

 

andrewgelman.com

(ちなみにPPNASと、余計にPが付いているのはPrestageousなPNAS、ということらしい)。

要は

  • 結論を出すのに使った統計が、「統計的優位」とされる5%ギリギリレベルだったりなど、データが非常に弱い
  • データは公開されていないのでよく分からない

ということだ。

本文以外にも、コメント欄のやりとりも興味深いのだけれども、その前にPNASがどういう雑誌なのかを説明したい。

実はこの論文が出版されたPNASというのは、確かに高いインパクトでPrestageousなのだが、いろいろ疑問の多い論文が載ったりもする。その理由の一つとして考えられるのは、雑誌のレビューに関するやりとりを担当するエディターの権限が一種独特であることだと思う。

PNASでは、レビューのプロセスに応じて、大きく分けて2種類の論文がある。1つはDirect submissionと呼ばれるもので、通常の論文レビューと似ていて、編集部にそのまま論文を提出してエディターがつく、というものである。2つ目はContributed submissionというもので、NAS会員が自分でレビューワーを選んで自分のmanuscriptをレビューしてもらうというものだ。direct submissionとcontributed submissionは、論文には明記されているのでどちらだったかはわかるのだが、このcontributed submissionというものになると、論文の質が微妙なものが多い…ように思う。direct submissionであっても、エディターになる人はNAS会員で、専門分野に合わせて指定したりする必要はある。また、すべての論文に誰がエディターであったか出るので、そのエディターの傾向のようなものを掴むのは容易だと思う。

今回の論文のエディターは、ブログのコメント欄で指摘されている通り、Power pose論文で有名なAmy Cuddyという人の先生だったそうだ。このPower pose論文に関して、結果が再現できない、統計的に弱かったのではないか?という指摘がすでにされている。

PNASはシステム的にちょっと変わっている、なかなかトリッキーな雑誌だとは思うけれども、こういうエディターの名前が明らかになるというのは結構面白い。最近はcontributed submissionの場合、レビューコメントをした人の名前も出るようになったみたいだ。

レビューワーを明らかにすることには賛否両論ある。いろいろ手間がかかって面倒とか、匿名性が保たれた方が率直なコメントをしやすいとかあるかもしれないが、エディターやレビューワーのレビューというメタレビューも面白いかもしれない。